CREALから待望の新規ホテルファンドの募集がありました
ファンド概要はこちら
今回の「ちくらつなぐホテル」は、リート、ホテル事業会社、米系・アジア系投資ファンド、私募ファンドが取得するホテルとは、一線を画しています。
↑のような、いわゆる「機関投資家向け」のホテルの評価は、そこそこやってきたトッティですが、今回の「ちくらつなぐホテル」は純粋な収益のみが目的ではなく、少し毛色が違います。
試行錯誤ではありますが、ファンドを分析してみました。
査定の前に
CREALが公開している情報には、「会員に限定される」情報があります。
なので、会員限定データを使って分析してみても、ブログ上はボカシて記載、あるいは記載できません(これが面倒くさい!)。
抽象的な記載になるかもしれませんが、ご了承ください。
また、トッティは物件を見てませんし、詳細な資料も確認できませんので、完全に個人的な意見です。あくまで参考程度にしてくださいね。
さらに、今回のような”クセの強い”物件の場合、これまでの僕の経験と当てはめて「否定」してしまうことは簡単です。その方がブログのエッジも効きますし。
ただ、それだと僕の本意ではありません。
なので、中立の立場からコメントし、ただの”否定”にならないよう十分気を付けたいと思います。
誰も傷つかないように!
リゾート系ホテルで選好される物件の特徴
投資用ホテルの需要は、適格性を有する物件を中心に過熱しています。
観光客が中心となる「リゾートホテル」系で、投資家に選考されやすい物件には特徴があります。
投資家に選ばれるホテル
- 観光資源が豊富で「インバウンド」が流入する観光都市
- 人口が流入しているなど、今後も成長が見込める都市
- そのエリアではシンボリックで「オンリーワン」の物件
- 競合ホテルが「新規参入しずらい」障壁があるか
- リゾートホテルは物件の規模が大きいほど競争力が高い
一方、投資家が避ける傾向にあるホテルの特徴はこちらです。
投資家に選ばれないホテル
- インバウンドの流入が期待できない観光資源がない地方都市
- 周辺に強い競合ホテルがある(または開発される可能性が高い)
- ホテルオペレーターの実績が乏しい
- ホテル事業収支が楽観的である
- 賃料設定が割高で、将来の賃料減額リスクがある
つまり、安定した運営が見込まれるだけの、宿泊需要があるかどうかがポイントで、ざっくりと言えば、ホテルは「立地」と「オペレーターのプラン」にかかってます。
実績がある優良なホテルは、積極的にリート系が取得を検討する動きがある一方で、ホテルの「立地」や「客室のスペック」などが劣る物件では需要が低く、2極化はより鮮明になっています。
経営の厳しいホテルも多いですよ。
今回の「ちくらつなぐホテル」がどうかというと、
- 立地 ×
- 観光資源 ×
- インバウンド ×
- オペレーター △
- 競合ホテル △
- 規模 △
- シンボリック 〇
立地や観光資源はお世辞にも良いとは言えませんが、学校を改修したデザイン性の高い建物なので「シンボリックでオンリーワン」という点はアドバンテージがありそうです。
千葉県のリゾートホテル市況
千葉は東京に隣接しているという、地理的な優位性がありますが、リゾート系のホテルは、その地理的な特徴から、
- 日帰り客が多い
- 観光地相互の回遊性が乏しい
という特徴があります。
1997年に「東京湾アクアライン」が整備されてからは、東京、神奈川からのアクセスが大きく改善しました。
ただその半面、アクアラインを利用することで「手軽に日帰りができる」ようになったので、わざわざ宿泊しなくてもすんでしまうことから、日帰り客が増えてしまいました。
アクアライン通行料も800円(普通車・ETC)と割安だしね。
千葉は「首都圏の手軽な観光地」として、日帰りで1つの観光地だけを観光するような「スポット的な観光」が多くなり、宿泊を伴う観光地としての性格が希薄化しています。
成田空港はあるけどね。これといった観光地は少ない県です。
ちくらつなぐホテルは、いくらアクアラインがあるとはいえ微妙に遠いので、宿泊はしてもらえるかもしれません。
ただ、わざわざ東京や神奈川から宿泊客を呼び込むだけの観光資源がある・・・とも言えません。
ちくらつなぐホテルの特徴
房総半島の端っこ、南房総周辺は、これといった観光地もないので、ここまで観光目的で来る人も少ないでしょうね。
ちくらつなぐホテルから、上の地図の観光地までは相当距離がありますし、観光地の周辺には、例えば「マザー牧場」のあたりに、「大江戸温泉 君津の森」とか、もっと選考性の高い競合ホテルがありますから。
ちくらつなぐホテルは海沿いなので、海水浴場には近くて便利ですけどね。
ちくらつなぐホテルのターゲットは首都圏に住んでいるファミリー層ではないでしょうか。
ほとんどが東京、千葉、神奈川の在住者になると思います。平日であれば、シニア層の割合が増えるかもしれません。
今回のファンド分析のポイント
リゾートホテルや旅館は、都心部のホテルと比べて新規参入リスクは低いですが、競合施設との競争によって、ホテル事業収支が大きく変動するリスクが高くなります。
そのほか、運営するオペレーターに高い専門的な能力が必要とされます。
オペレーターの能力が超重要ってことか。
賃料負担率
ブリッジ・シー・エステートが間に入るマスターリース契約で、マスターリース賃料は固定です。
ブリッジ・シー・エステートからホテル事業者にサブリースされてますが、この「サブリース賃料をホテル事業者が十分負担できるか」がポイントです。
つまり、ホテルの事業収支をよく確認しておく必要があります。
事業収支はすべて想定
会員限定に公開されている事業収支は、稼働前のホテルなので「全て予測値」です。
言わば業者の言い値なので、一つの参考にはなりますが、「事業採算がとれない→家賃が負担できない→賃料収入がない→投資家が損失」というリスクも考慮しておくべきでしょう。
既に稼働してアクチュアルが把握できるホテルより、リスクが大きくなります。
客室単価(ADR)と客室稼働率(OCC)
ちくらつなぐホテルの鑑定では、想定の客室単価(ADR)が非常に高く想定されてます(その半面、稼働率(OCC)が極端に低いのはなぜ?)。
超人気施設の「大江戸温泉君津の森」よりも、大幅にADRが高いですね。
ちょっと意味がわかりませんでしたが、トータルでみる稼働平均客室単価RevPer(ADR×OCC)は低く査定されます。
最終的なRevPARが低くなったので、結果OKですが、査定に違和感がありました。
その他、人件費や売上原価、販管費などは概ね一般的な水準です。費用項目はおそらく、今後も大きくブレることなく、おおむね想定どおりの水準で推移すると思います。
想定シナリオ
↑で書いたとおり、稼働前なので、ADRやOCC、その他の収入、費用項目はすべて想定です。
将来的なADRの推移など、誰にもわかりませんので、楽観的なシナリオを書こうと思えば書けてしまいます。
CREALで提示された事業収支を見る限り、当初の想定としては楽観的(ADR、飲食売上など)なシナリオだと思います(私見です)。
通常のホテル運営は、稼働してから試行錯誤を繰り返していくので、初期段階からうまく事業が回るとは限りません。特に観光系のホテルは。
今では絶好調でリートでも有名な「大江戸温泉 君津の森」も、福祉センターを改修した平成20年当時は苦戦してますが、徐々に人気施設になっていきました。
ちくらつなぐホテルも、特に稼働して間もない初年度は苦戦することも、十分考えられます。
営業利益(GOP)
一般的に、ホテルの負担可能な賃料に対する営業利益(GOP)比率は、70~80%と言われています。
ちくらつなぐホテルの「事業収支の想定が正しいならば」、営業利益(GOP)は70~80%の間にあるので、適切な水準にあります。
つまり、支払賃料の水準は、事業収支から求めた営業利益(GOP)に対して十分な余裕のある水準に設定されてます。
これは、景気変動などの経済情勢、気候変動、突発的な事象、競合ホテル・旅館の新規参入などの影響による事業収支のボラティリティの許容度が大きいことを表しています。
何が起こっても、賃料の支払いに余裕があるってことだね。
あくまで、「想定する事業収支どおりに運営がうまく進めば」の話ですが。
キャップレート(利回り)
重要なポイントに「賃料の負担水準」のほか、「キャップレート(利回り)」があります。
GOPが賃料負担の原資となるため、一般的にホテルはオフィスなどの投資用不動産と比較して、一般的に高い投資利回りが要求されます。
つまるところ、鑑定の〇%が「適切な水準なのかどうか」の判断です。
※〇には鑑定の還元利回りが入ります。会員限定で公表を控えます、すみません。
競合ホテルとの比較
競合ホテルを分析してみましょう。
対象からやや範囲を広げると、「大江戸温泉 君津の森」、内房の駅周辺には宿泊特化型ホテル、東京アクアライン接続部には「龍宮城スパホテル三日月」などがあるほか、内陸部の温泉旅館「亀山温泉湖水亭嵯峨和」などが有名です。
ちくらつなぐホテルの施設構成、価格帯、立地条件やシンボリックな建物デザインなどを踏まえると、直接的に競合しそうなホテルはないものの、
「大江戸温泉 君津の森」はリートで売買されてますし、ちくらつなぐホテルとキャップレートを比較しておくべきでしょう。
「大江戸温泉 君津の森」はADR、OCCは上限にあるモンスター級の宿泊施設です。
特にNHK大河ドラマ「真田丸」のロケ休憩所に使われてから、需要が爆発し、今では大江戸温泉リートの中でも1、2を争う高い稼働率の施設です。
「大江戸温泉 君津の森」はリート物件なので、キャップレートは既に公表されてるため、ブログで書いても差支えないので書きますが、取得時のキャップレートはNOI6.4%、NCFで5.6%です。
NOI6.4%、NCF5.6%と、ちくらつなぐホテルのキャップレート(鑑定の還元利回り〇%)との比較がポイントです。
要するに5.6%と、ちくらつなぐホテルの還元利回りを比べて、高いとみるか、低いとみるか。
競合ホテルのキャップレート
地方都市であれば、リートのリゾートホテルのキャップレートは6~6.5%程度。新築ならば7%まではいきません。
そう考えると、本ホテルは立地が劣り、稼働前のホテルとはいえ、〇%は、まあ、許容範囲と言えなくもありません。
※度々すみません。ブログで書けませんが、〇%には鑑定の還元利回りが入ります。
ちくらつなぐホテルのキャップレートは適切か?
本ホテルは、言ってしまえば「僻地にあって観光資源もない稼働前のホテル」です。
投資対象としてはリスクが高いですが、そのリスクを適切にキャップレートに反映していれば問題はありません。
ちくらつなぐホテルの鑑定キャップレートと、大江戸温泉の利回りの比較では、既に稼働している人気施設との比較にはなりますが、CREALの鑑定では、大江戸温泉より1%近くストレスをかけてスプレッドを積み上げてます。
この1%に「立地が劣る」、「未稼働」、「事業収支が想定」などのリスクの全てが詰まっていれば問題ないわけです。
以上を踏まえてると、トッティは「本物件の投資リスクは高い。もっと利回りを積み上げるべき。つまり物件価格を低く抑えるべき」だと思います(私見です)。
想定される売却先
出口の売却先について検討してみます。
2億そこそこの物件であれば、個人投資家でも買えますが、ホテル運営のノウハウがないでしょうから、手を出しにくいと思います。
一方、リートや外資系ファンドが目を付けるには、規模が小さいし、立地もよくなく、収益に特化しているわけではないので、リート系が買うようなホテルではありません。
なので、典型的な売却先は、ホテルへの投資についてノウハウがあって、広域的に投資活動を行っている法人投資家になると思います。
需要が限定される点も気になるな。
まとめ
ブログでは個性は出しつつも、できるだけ中立的な第3者意見を書いてきました。
利害関係者に影響してしまうといけないので、最終的に投資の可否までブログで書くことは控えたいと思います。
ショボいブログに、そこまでの影響力はありませんけどね!
ちくらつなぐホテルはコンセプトが「地方創生」なことからわかるように、リートのようなゴリゴリの収益目的とした投資ホテルではありません。
利益優先ならば、進んで投資するファンドではないかもしれません。ただ、地域貢献という切り口から、投資する意味が生まれます。
また、稼働前なので、本ホテルの未来はオペレーターの運営次第です。
シンボリックなデザインを活かした集客、運営方針の試行錯誤、適切なネットエージェントを活用して認知度を高めていって個人客を集客、繁閑に応じたイールドマネジメントとコストコントロールを行う・・・とか。
オペレーターのがんばり次第で、いくらでも競争力を高めることは可能です。
競争力を高めれば、何度も来てくれるリピーターが増えるはず。
個人的には、今回のファンドには多くの投資は控えますが(あるいは投資をしない)、挑戦するCREALを応援する気持ちですし、地方創生を目的としたファンドには共感します。
新たに挑戦する人を笑うほど、野暮じゃありません。
本ファンドはCREALとオペレーターのがんばり次第。ぜひ成功させて欲しいと思います。
これまでの大型ファンドの案件分析
【超公開】CREALホテルの鑑定評価額はこう求められている!
CREAL(クリアル)保育所は本当に投資OK!?不動産鑑定士の立場から分析
ホテルアマネク記事
【CREAL大型ファンド】ホテルアマネクは本当に売れるのか?という不安を解消
ホテル市況の参考
CREALのホテルファンドについて思ったこと。ヘルスケア市況など。