クラウドファンディング投資研究所

サラリーマンを卒業した不動産鑑定士が、クラウドファンディングに投資してみた

ホテル資産と感染症リスク

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コロナ打撃を受け、急激にパフォーマンスを落としているホテル業界。

 

「Gotoキャンペーン」による政府の支援策が検討されるも、コロナ第2波により、効果が揺らいでいる状況にあります。

 

ホテルアセットは元来、賃貸住宅などの典型的なコアアセットと比較して、ボラティリティが大きい資産です。

 

ホテル資産のアップダウンは、日経平均株価のチャートと概ねリンクしているので、日経平均株価とともに、あらためて昨今のホテル市場を振り返ってみたいと思います。

 

長文になるので、参考になりそうな箇所だけ、切り取っていただければ・・・

 

 

日経平均株価の推移とホテル市場

 

【日経平均株価の推移】

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1991年頃の平成バブル崩壊以降、ホテル取引は下落の一途を辿るも、2003~2007年頃から急激に上昇に転じました。いわゆる「ファンドバブル」です。ファンドバブル期は、リート活性化に伴い、ホテルアセットも活発な取引が行われました。

 

ただし、2008年のリーマンブラザーズの経営破綻に端を発した世界的な金融危機と景気低迷を背景に(いわゆる「リーマンショック」)、一気に取引は低調となります(僕はリーマンショック直後に不動産鑑定士になりました)。

 

2009年には「新型インフルエンザ」が世界的に大流行し、さらに2011年には、「東日本大震災」という未曾有の災害も重なって、観光需要は自粛圧力が強まり、ホテル市場は長期的な低迷が続くことになります。

 

そんな中、2012年頃から取引市場に回復の兆しが見え始めます。2013年~2014年以降は為替相場、ビザ要件の緩和、LCC便の就航等の影響で、「インバウンドブーム」が到来することになったのです。

 

インバウンド需要の増大は、様々な投資アセットに好影響を与えますが、その中でもホテルは、インバウンドの恩恵を最大限に享受できるアセットです。インバウンド需要の高まりにより、観光地を中心に宿泊需要が増大、ホテル資産価値の回復基調が確かなものとなり、アップサイドの期待が高まりました。

 

この頃から、ホテル運営のパフォーマンスが向上し、ホテルアセットへの注目度は急激に高まり、瞬く間に幅広い投資家が取引市場に参入するようになります。市況の好転をみたリート、私募ファンドによる取引も活発化したため、ホテルの売買件数は大幅に増加しました。

 

2015年頃からは、「ふるさと旅行券」の経済対策も実施されたため、宿泊需要がさらに拡大。ホテル特化型のリートなど、市場に参入するプレイヤーは着実に増え、ホテル市場は、空前の活況を呈することになります。

 

※後に過熱した市場における売物件の枯渇感も、徐々に指摘されるようになった。大手ファンドが投資する適格性を有する大規模物件が、徐々に少なくなってきていた。

 

2016年は、円高傾向によってインバウンドの宿泊需要の伸びは一時的に停滞しましたが、2017年に入って、航空路線の拡充やクルーズ船寄港数の増加、査証要件の緩和などを追い風に、インバウンド数が増加に転じます。

 

その結果、一部の地域の停滞感を除いて、全国的にOCC(客室稼働率:Occupancy Ratio)は増加し、宿泊市場は力強く成長しました。

  

2018~2019年は、融資に積極的な金融市場の追い風もあり、ホテル投資の将来性を見越し、J-REIT、私募リート、不動産会社、外資系投資ファンド、ホテル事業会社、ディベロッパーはホテル開発に軸足を移し、全国でホテル開発が活発化することになります。

  

【商業地の地価上昇が大きい地点】

  • 2018年:ニセコ(北海道)、京都、名古屋
  • 2019年:ニセコ(北海道)、沖縄、大阪

※インバウンドが中心となり、観光地の地価が上昇。東京では近年、銀座よりも浅草の地価上昇率が高まった。

   

最高級の外資系ホテル(マリオット、ヒルトン、IHG、ハイアットなど)の開発も続きました。

 

※一方で、国家戦略特区(民泊が自由)である大阪では民泊の増加や、ホステルが乱立した京都、ビジネスホテル開発が続く千葉など、一部では供給過多によるOCCの上昇を阻害する要因も出始めた。

 

コロナ蔓延後のホテル市況

 

 

当時、僕がヒアリングした投資関係者の中には、一部でホテル価格の高止まりや、過剰供給を懸念する声も聞かれたものの、「旺盛なインバウンド需要」を背景に、ホテル市場は2020年ごろまで好調が続くと見るプレイヤーも多かった印象です。

 

・・・コロナが蔓延するまでは。

 

※当時は中長期的に期待できるアセットとして、ホテル、物流、オフィス、ヘルスケア等のセクターが期待されていた。

 

例えば、こちらのチャートはホテルリート「インヴィンシブル投資法人」の利回りを示しています。コロナショックにより、分配金は98%減少しました。なお、機関投資家や外資系は、主に「アービトラージ」(金利差)に注目し、「キャップレート」(利回り)で物件を購入する傾向があります。

 

【インヴィンシブル投資法人の投資口価格・利回り】

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(出典)JAPAN-REAT 

 

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【ホテル】インヴィンシブル投資法人の分配金が98%減 - クラウドファンディング投資研究所

 

ホテル資産の特徴と評価上の留意点

 

ホテル事業は、経済情勢や感染症の流行、競合ホテルの新規参入、運営側の能力等により、事業収支が大きく変動するリスクが高くなります。

 

ただ、リスクが高い分、ホテル事業に基づくGOPが賃借人による賃料負担の原資となるため(変動賃料の場合)、オフィス等のコアアセットと比較して、「より高いキャップレート(利回り)」が要求されることになるのが特徴です。

 

政府の観光立国政策、2020年東京オリンピックを見越し、ADR(平均客室単価:Average Daily Rate)、OCCが伸び続けて価格が高騰し、強気な取引価格が見られるようになったホテルは、コロナで一転して価格を維持することが困難になりました。

 

ホテルは、事業の用に供されている事業用不動産です。特にインヴィンシブル投資法人でも「変動賃料型」(一部固定賃料を含む)のリース形式が採用されてるように、高い収益性を維持していたホテルは、事業収支が賃料に直結するため、賃料収入が下落すれば価格も下落することになります。

 

不動産評価の実務上は、今のところ個別物件毎に対応し、実績ベースの賃料下落は毎期のキャッシュフローで折り込み、将来予測はキャップレートに折り込むことが多いです。ただキャップレートにしても、ドメスティックな反映は現時点では難しくなってます。

 

このような状態が続けば、インカムゲインもさることながら、懸念されるのは売却時のキャピタルゲインです。例えば、不動産投資の売却時、不動産クラファンの償還時期によっては厳しい価格付けになる可能性も高まってます。

 

※本来、収益物件は中長期的な観点から賃料を査定するが、自粛が長期化すれば賃料への影響も避けられない。

 

影響が大きくなった最大の理由はタイミング

 

ここまで影響が大きくなった最大の理由は、2018~2019年に多くの投資関係者がホテル投資に軸足を移し、供給スピードが増した直後だったから。コロナ蔓延は、タイミングとしては最悪でした。

 

不動産市況は「良い悪い」を繰り返すサイクルがあります。経済もしかり。「経済が良くなることで不動産市況も良くなり、不動産開発を始めたものの、実際に物件が供給されている頃には経済が悪くなっている」、ということもままあります。

 

2019年には「年間3188万人」と過去最高を記録したインバウンド数も、2020年現在は回復の目処は立っていません。そしてコロナ禍では、2021年も劇的に改善するのも難しい。

 

インバウンドの増大とともに、供給が加速してきたホテルですが、改めて、インバウンド需要に特化するリスクが表面化した格好になりました。

 

国内需要に目を向けるも、自粛ムードは続くうえ、そもそも日本の人口は、2008年をピークに減少の一途で、母数が増えません。

 

おわりに

 

将来のことは誰にも分かりませんし(コロナ禍では特に)、不動産市況も常に変化しているという前提の上で、ホテル資産に投資する場合、ホテル資産の持つ極めて高いボラティリティを認識し、キャシュフローの変動や、出口の売却シナリオには、より一層注視が必要な時代になりました。

 

ホテル市場が長期的に回復するシナリオは、まだ見えません。